指揮者サー・ロジャー・ノリントンが亡くなりました。古楽演奏の先駆者として知られたノリントン卿は、現代において最も影響力があり、革新的な指揮者の一人でした。オーケストラ演奏におけるビブラートの多用を歴史的根拠がないとして嫌い、「音楽を変えることが自分の使命ではない」と主張した彼は、音楽を可能な限り原典に忠実に、混じり気のない形で演奏することを目指しました。氏の逝去により、我々は親愛なる友であり長年の芸術的パートナーを失いました。謹んで哀悼の意を表します。
サー・ノリントンは1934年、英国オックスフォード生まれ。子供の頃からヴァイオリンを習い、大学では英文学と歴史を専攻し、聖歌隊にも所属。その後、指揮の勉強を始めました。1962年にシュッツ合唱団を、後に管弦楽団のロンドン・クラシカル・プレイヤーズを設立し、作品が作曲された1750年から1900年までの時代のオリジナル楽器や奏法を駆使する演奏スタイルを追求しました。50年以上にわたる指揮者活動の中で、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルをはじめ、ニューヨーク、ボストン、シカゴ、クリーヴランドの各交響楽団、その他多くの著名なアンサンブルと共演しました。
ドイツ・カンマーフィルハーモニーとは、2003年の初共演以来、特別な関係を築いてきたノリントン卿。2010年代以降は、高齢のため指揮台に上るのは年間に数週間のみとなりましたが、カンマーフィルハーモニーは例年、氏が手掛ける数少ないプロジェクトの一つに名を連ねていました。当楽団について、「古楽も演奏する現代のオーケストラの中で、最も歴史的知識にもとづく忠実な演奏をしている」とかつてドイツ国営ラジオでコメントしています。近年は座ったまま指揮することが多かった氏ですが、特有の茶目っ気たっぷりの眼差しで、客席を振り返ることもしばしば。そのいかにも英国人的なユーモアは、忘れがたい名演の数々と共にブレーメンの聴衆の記憶に深く刻まれていることでしょう。
グラミー賞にはこれまで4度ノミネートされ、2001年に遂に受賞を果たしました。2021年、87歳で指揮活動から引退し、その際には「世界でも最も素晴らしく才能ある音楽家たちと共に、50年以上にわたり音楽づくりに取り組んできましたが、そのすべての瞬間を心から楽しませてもらいました。今こそ指揮台を降りる時が来ました」と述べています。サー・ロジャー・ノリントンは2025年7月18日、91歳で逝去されました。
ご遺族の皆様に謹んでお悔やみ申し上げるとともに、 心からご冥福をお祈りいたします。