大型プロジェクト
探求心あふれるチクルスへの取り組み
2004年、パーヴォ・ヤルヴィを芸術監督に迎えた楽団は音楽的探求の旅に乗り出し、その途上で数々の受賞に輝くこととなった。特定の作曲家のチクルスにとことん向き合い、細部まで徹底的に掘り下げようとするその共同の取り組みは、世界中で称賛の嵐を巻き起こした。その第一弾として挑んだのがベートーヴェンの全交響曲の新解釈であり、一連の演奏会も録音も、新基準を打ち立てたとして今日まで評価が高い。続いて取り組んだシューマン・チクルスも、世界的に大成功を収めた。現在プロジェクトとして力を注いでいるのがブラームスの作品だが、その斬新ともいえる解釈は、ハンブルクからニューヨークまで各地で絶賛を浴び、今や楽団は「ブラームスの最高の理解者」(ハンブルガー・アーベントブラット紙)との呼び声も高い。さらに、最近目を向けているのは、ウィーン古典派の代表格とされるヨーゼフ・ハイドンである。
ベートーヴェン
「世界最高のベートーヴェン」
まず第一の大きな節目となったベートーヴェンのオーケストラ作品の新解釈。パイオニア的とも称され、その交響曲全9曲の完全演奏は、東京、横浜をはじめ、ラノディエール、ストラスブール、パリ、ザルツブルク音楽祭、ボン・ベートーヴェン音楽祭、ワルシャワ、サンパウロ、さらには北京の紫禁城と世界各地で大反響を呼んだ。
RCAリリースのこの「ブレーメン勢によるベートーヴェン」のレコーディングにより、楽団は2010年のエコー・クラシック賞をはじめ、オーケストラとしては史上初の栄誉であるドイツ・レコード批評家賞の名誉賞など数々の賞に輝いている。また2016年には、ヤルヴィ率いるカンマーフィルハーモニーの同交響曲全集が日本のクラシック音楽専門誌「レコード芸術」によるベートーヴェン交響曲の名盤ランキングで、世界中の名だたるオーケストラを抑えてダントツの1位を獲得、「史上ベストワンのベートーヴェン」の栄冠に輝いた。
ベートーヴェン生誕250周年にあたる2020年、楽団は改めてボン生まれの楽聖を大きくクローズアップ。シュタインマイヤー連邦大統領の招きで、2019年12月にベートーヴェン祝祭年の開幕を記念し、大統領官邸のベルヴュー宮殿で演奏した。そしていよいよ2020年、「ブレーメン勢によるベートーヴェン」として交響曲全9曲を新たにCDリリース。続いて、楽団の本拠ブレーメンを含む世界各地で予定されていた交響曲の全曲演奏が、コロナ禍により延期を余儀なくされた。その待望のチクルス披露が、この2022年夏にブレーメン音楽祭の一環として、遂に実現することとなった。
ブラームス
斬新なブラームス
2015年以来、芸術監督ヤルヴィと共に重点的に取り組んでいるのがブラームスの交響作品であり、こちらも既に世界中で大反響を呼んでいる。斬新な解釈によるこのハンザの巨匠の楽曲演奏を、ザ・ニューヨーカー誌は「新感覚のブラームス」と絶賛。交響曲全4曲は、これまでにサンクトペテルブルク、ウィーン・コンツェルトハウス、ヴィースバーデンのラインガウ音楽祭、そして最近では2018年にパリのシャンゼリゼ劇場にて完全演奏された。2017年10月発売の同チクルス第一弾CD(Sony/RCA)は、オーパス・クラシック賞を受賞。2018年と2019年には、さらなる録音がリリースされ、ブラームス・チクルスが完成した。ブレーメンのブラームスは「ベンチマークとなる録音だ」とディー・ツァイト紙は評価している。
同プロジェクトのハイライトの一つとなったのが、2018年4月10日のブレーメン大聖堂における「ドイツ・レクイエム」の演奏である。本作品がブレーメンの聖ペトリ大聖堂で初演された1868年4月10日からちょうど150年の記念すべき日に、カンマーフィルと芸術監督ヤルヴィは、ドイツが生んだこの偉大な作曲家にオマージュを捧げた。本公演の模様を収めたDVDが2020年4月に発売された。2019年10月には、音楽ドキュメンタリー『ザ・ブラームス・コード』が発表され、ベルリンでプレミア上映を迎えた。これまでもカンマーフィルの活動を追ってきたクリスティアン・ベルガー監督による第三弾となる本作は、楽団とヤルヴィの音楽と向き合う際の個性的なアプローチにスポットを当てた見ごたえのある映像作品。権威あるドイツ・レコード批評家賞の優秀作品に選出されたほか、2020年4月のニューヨークフェスティバルで銀賞に輝いた。